近年、オストメイト（人工肛門・人工膀胱保有者）対応トイレの整備が進み、ストーマ保有者の方が安心して外出できる環境が整ってきています。しかし、「具体的にどう使えばいいの？」「どこにあるの？」といった疑問をお持ちの方も多いのではないでしょうか。
この記事では、オストメイト対応トイレの基本的な設備や使い方から、外出先での探し方まで詳しく解説します。また、自宅でのトイレ改修や前広便座の選択肢についてもご紹介します。
オストメイト対応トイレとは？通常のトイレとの違い
ストーマ（人工肛門・人工膀胱）を造設した方は、お腹に装着したストーマ用装具（パウチ）に溜まった排泄物をトイレで処理する必要があります。
しかし、一般的な洋式トイレで処理しようとすると、中腰や前かがみの姿勢を維持しなければならず、体への負担が大きいだけでなく、便座や衣服を汚してしまう可能性もあります。
オストメイト対応トイレは、こうした課題を解決するために設計されたトイレです。ストーマ保有者の方が安心して外出できるよう、立ったまま楽な姿勢で排泄物の処理やストーマ用装具の交換などを衛生的に行える場所を提供することを目的としています。
オストメイト対応トイレの設備と使い方
オストメイト対応トイレには、排泄物の処理や装具交換をスムーズに行うためのさまざまな設備が備わっています。ここでは、主要な設備と具体的な使い方、設置タイプによる違いを解説します。
主要な設備とその機能
オストメイト対応トイレには、利用者の負担を軽くするための便利な設備が備わっています。主な設備とその役割は以下のとおりです。
| 設備名 | 主な機能 |
|---|---|
| 汚物流し | パウチ内の排泄物を流したり、装具や腹部を洗浄したりする。 |
| 温水シャワー | 腹部やストーマ周辺を温水で洗浄できる。 |
| カウンター | 新しい装具やストーマケア用品を置くための作業スペース。 |
| フック | 手荷物や衣服を掛けて、汚れないようにする。 |
| 汚物入れ | 使用済みのパウチなどを廃棄する。 |
| 化粧鏡 | ストーマ用装具を装着する際に腹部を確認する。 |
| 収納式着替え台 | 衣服が汚れた際に着替えるための台。 |
これらの設備は、ストーマ保有者の方が立ったまま楽な姿勢で処理ができるように設計されているのが大きな特徴です。ただし、すべてのオストメイト対応トイレに同じ設備があるわけではなく、トイレによってはお湯が出なかったり、シャワーが付いていなかったりする場合もあります。
【写真で解説】排泄処理から装具交換までの流れ
ここでは、洗浄台が設置された一般的なオストメイト対応トイレでの使い方を4つのステップに分けて解説します。
1. 排泄物を捨てる
まず、カウンターに必要なストーマケア用品を準備します。次に、パウチに溜まった排泄物を汚物流しに流します。立ったままの姿勢で処理できるため、腰への負担が少なくて済みます。
2.パウチや腹部を洗浄する
温水シャワーを使い、使用済みのパウチやストーマ周辺の腹部を洗浄します。
シャワーはノズルが伸びるタイプが多く、楽な姿勢で気になる部分をきれいにできます。
※注意：使用中のパウチは洗わないでください。パウチの破損などに繋がる恐れがあります。
3. 新しいパウチを取り付ける
洗浄後、カウンターに広げたストーマケア用品を使い、鏡で腹部を確認しながら新しいパウチを装着します。広い作業スペースがあるため、焦らず確実に行えます。
4. 着替えと後片づけ
必要に応じて収納式の着替え台を利用して着替えます。使用済みの装具は汚物入れに捨てます。
もし汚物入れがない場合は、防臭袋などに入れて持ち帰りましょう。
設置タイプによる違いと特徴
オストメイト対応トイレは施設によって設備が異なり、主に以下のようなタイプがあります。
- 洗浄台が設置されている機能的なタイプ
汚物流し、温水シャワー、カウンターなどが完備された最も一般的なタイプです。装具交換から腹部の洗浄まで、幅広いケアに対応できるのがメリットです。 - 洗浄水栓と背もたれが一体化したタイプ
洋式便器の背もたれ部分に、パウチを洗浄するための水栓が取り付けられている簡易的なタイプです。省スペースで設置できるのが特徴ですが、腹部を直接洗うのにはあまり適していません。 - 便座の前方が広いタイプ
便座に座ったままパウチ内の排泄物を処理しやすいように、便座の開口部が前方に広く作られているタイプです。洗浄機能はありませんが、座位での処理が楽に行えます。
外出先でのオストメイト対応トイレの探し方
安心して外出するためには、事前にトイレの場所を把握しておくことが重要です。ここでは、主な設置場所や目印、便利な検索ツールをご紹介します。
オストメイト対応トイレが設置されている場所
外出中に急な装具の交換や処理が必要になった際にあわてずに済むよう、事前にトイレの場所を把握しておきましょう。
オストメイト対応トイレは、主に以下のような場所に設置されています。
- 公共交通機関：駅、空港、道の駅、高速道路のパーキングエリアなど
- 商業施設：デパート、ショッピングセンター、ショッピングモールなど
- 公共施設：市役所・区役所などの官公庁施設、美術館、図書館など
- 社会福祉施設：老人福祉施設、障害者支援施設など
こうした施設で設置が広がっている背景にあるのは、2006年に施行された「バリアフリー法（高齢者、障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律）」です。この法律によって設置が促進され、ストーマ保有者の方がより安心して外出できる環境が整いつつあります。
目印になる「オストメイトマーク」
オストメイト対応トイレの入口には、「オストメイトマーク」が掲示されていることがあります。これは、トイレ内にストーマ保有者の方が利用できる設備が整っていることを示す大切な目印です。
また、このマークにはもう一つ重要な役割があります。車いす利用者とは異なり、ストーマ保有者であることは外見からはわからないため、多機能トイレを利用する際に周囲の視線が気になってしまう方も少なくありません。
入口にマークがあれば、「このトイレはストーマ保有者の方も利用できる場所である」ということが明確に伝わります。その結果、ストーマ保有者の方も気兼ねなく、安心して利用することができるのです。
便利な検索サイトとスマートフォンのアプリ
外出先で急にトイレを探す必要が生じた時や、事前に旅行の計画を立てる際に役立つウェブサイトやスマートフォンアプリがあります。
- オストメイトJP
- オストメイトなび
Android版：https://play.google.com/store/apps/details?id=com.navi.ostomate&hl=ja&pli=1
iPhone版：https://apps.apple.com/jp/app/%E3%82%AA%E3%82%B9%E3%83%88%E3%83%A1%E3%82%A4%E3%83%88%E3%81%AA%E3%81%B3/id989232229
これらのツールを活用すれば、外出前に目的地周辺のオストメイト対応トイレを確認でき、外出中に処理が必要になったときも最寄りのオストメイト対応トイレを検索できます。こうした安心感により、今までためらっていた外出や旅行にも積極的に取り組めるようになり、行動範囲を大きく広げることにつながります。
自宅でできるオストメイトへのトイレ対応
公共施設だけでなく、日常的にケアを行う自宅のトイレ環境を整えることも大切です。ここでは、自宅でできるストーマ保有者向けのトイレ環境の整備として、2つの方法をご紹介します。
方法 |
メリット |
デメリット |
|---|---|---|
便座交換 |
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リフォーム工事 |
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自宅トイレを快適にする「前広便座」
公共施設ではオストメイト対応トイレの設置が進んでいる一方で、自宅での排泄処理に悩みを抱えている方も少なくありません。一般的な家庭用トイレでは、中腰になったり膝をついたりして処理を行う必要があり、体に大きな負担がかかってしまいます。
こうした悩みを解決する選択肢のひとつが、自宅の便座を交換するだけで設置できる「前広便座」です。前広便座は、通常の便座よりも前方の開口部が広く設計されており、座ったままでも楽な姿勢で作業できるスペースを確保できます。さらに、腹部や装具の排出口を洗浄できる温水シャワーを備えた製品もあり、衛生面での安心感も得られます。
導入にあたって大掛かりな工事は不要で、便座を付け替えるだけで利用可能です。また、オストメイトでないご家族もこれまで通り通常のトイレとして使用できるため、家庭全体にとって利便性の高い設備といえます。
前広便座「ZA FREE」(ケアシャワーモデル)
オストメイトの方のために開発された前広便座。便座前部の広々としたスペースによって、座った状態でパウチ処理が可能です。温水ケアシャワーが付属しており、様々な洗浄や処理をスムーズかつ衛生的に行えるため、従来の中腰姿勢での処理や排泄物の跳ね返りによる汚れといった悩みの軽減に役立ちます。
設置のご相談・ご購入は、弊社相談窓口「よりそうだん」へお問い合わせください。また見本展示(各拠点)と実機でのお試し (横浜・三遠)もおこなっております。
リフォーム工事の種類と費用相場
より本格的な設備を求める場合は、リフォーム工事という選択肢もあります。工事の規模や内容は、現在のトイレの状況や予算に応じてさまざまです。
- ケース1：既存の便座をオストメイト対応便座に交換
「前広便座」などに交換する最も手軽な方法です。商品価格の目安は10万円台前半です。 - ケース2：既存のトイレに「パウチ・しびん洗浄水栓付背もたれ」を取り付け
洋式便器の背もたれに洗浄用の水栓が一体化した器具を設置します。商品価格の目安は10万円台半ばです。 - ケース3：トイレスペースに「汚物流し」を新たに設置
公共施設にあるような専用の汚物流しを設置する方法です。給排水工事を伴うため比較的大掛かりな工事となり、商品価格も20万円台から100万円を超えるものまで幅広くあります。
これらの価格はあくまで商品本体の目安であり、別途工事費が必要です。工事内容によって費用は大きく変動するため、専門業者への見積もり相談をおすすめします。
ストーマに関するご相談はヤガミホームヘルスセンターへ
今回は、オストメイト対応トイレの設備や使い方、探し方、そしてご自宅での対応方法について解説しました。トイレ環境が整うことで、オストメイトの方の生活の質は大きく向上します。
ヤガミホームヘルスセンターでは、ストーマ保有者の方々の快適な暮らしをサポートするため、専門知識を持ったスタッフがご相談に応じています。ストーマケア用品の選び方から日常生活のお悩みまで、どうぞお気軽にご相談ください。
※本記事はオストメイト対応トイレの利用方法と設備についての情報提供を目的としています。装具の選択や皮膚トラブルなど医療的な内容については、医療従事者にご相談ください。
【ご相談窓口】
ストーマ用品オンラインショップ ヤガミホームヘルスセンター「e.よりそうだん」
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